EC物流を改善して業績アップ!物流のプロが解説する顧客視点の物流DX【後編】


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EC物流の課題の解決方法を、物流の専門家4人に解説していただくオンラインイベント「SHIFT FUTURE vol.3 中小企業こそ重要なEC成長と物流DX」を2021年2月に開催しました。

セミナーレポートを前後編でお届けしています。今回は後編、第3講座と第4講座、パネルディスカッションを公開いたします。

▼ 前編はこちらから

EC物流を改善して業績アップ!物流のプロが解説する顧客視点の物流DX【前編】

2021-04-20

第3部 企業視点で物流を考える ~継続的な利益を生むために~

第3部の講師を務めたのは、オムニチャネルコンサルタントの逸見光次郎さん。
物流コストを正しく理解するための財務諸表の読み方や、物流部門と購買部門などが連携して全社最適を図る方法など、「利益を生み出す物流の仕組み作り」について解説してくださいました。


オムニチャネルコンサルタント
逸見 光次郎 (へんみ こうじろう)氏
70年生。学習院史学科卒。三省堂書店、ソフトバンク イー・ショッピング・ブックス立ち上げ(現 セブンネットショッピング)、アマゾンジャパン、イオンネットスーパー立ち上げと全社デジタルビジネス戦略担当、キタムラ執行役員EC事業部長と、小売流通にて店舗とネットの融合に経営から現場まで幅広い立場で関わる。17年独立。株式会社CaTラボ代表。日本オムニチャネル協会理事。小売、メーカー、飲食、銀行と幅広くオムニ化支援のコンサルを行う。書籍物流、ネットスーパー、キタムラ、コンサル先にて庫内作業と物流全般に関わり、在庫回転率と入出庫作業計画、需要予測などを活用した収益化に関わる。

「物流指標の可視化」が物流改善の第一歩

逸見さんは、EC事業の収益性を正しく判断するためには、前提として「物流指標を可視化し、社内で共有することが必要」と強調しました。

例えば、ECの物流費を固定費と変動費に分けて可視化したうえで、売上高や粗利のうち何パーセントを変動費が占めているのか把握することが重要だと指摘しました。

ECの物流費のうち、倉庫の家賃は固定費ですが、送料やピッキング費用は変動費です。全社利益に対するEC事業の貢献度を正確に評価するには、ECの物流費を変動費と固定費に分けて把握することが必須です(逸見さん)

▲ EC事業の物流費を固定費と変動費に分け、変動費の売上高に対する割合などを把握することの重要性を説明した

また、倉庫家賃や作業委託費、資材費、運送費、総在庫金額、90日滞留品比率、棚卸差損/差益など、各種指標を月次などで集計し、数値の推移を可視化することが物流改善の第一歩だと説明。そして、商品(在庫)の動きと利益の関係を理解し、「企業全体として利益貢献につながる共通指標を、経営者、物流管理者、バイヤーなど関係部署で共有することが必要」と指摘しました。
※画像をクリックで拡大表示

▲ 商品(在庫)の動きと利益の関係を理解しておくことが重要だと指摘した

EC物流は「全体最適」の視点が必要

逸見さんはEC物流における課題の例として、バイヤーが仕入れ原価の低減を追求した結果、会社の全体最適が損なわれることもあることを説明しました。

バイヤーが仕入れコストを下げる目的で、従来は月1,000個仕入れていた商品を一括で3,000個仕入れました。

1,000個の仕入れ: 原価600円/個
3,000個の一括仕入れ: 原価550円/個

バイヤーの視点では仕入原価が下がり、会社の利益につながったように見えます。しかし、3000個を一括で仕入れたことで倉庫の保管面積が増え、保管代は上がりました。さらに、在庫回転率が下がって滞留在庫が棚を占有し、ピッキング担当者の作業効率が低下しました。

保管代の上昇や、作業効率の低下によるコストアップが、仕入原価の低減効果を上回っていれば会社にとってマイナスです。

バイヤーの視点では、在庫を一度にたくさん仕入れると利益が増えたように見えますが、じつは会社全体の利益が減ってしまうこともあります。購買部門と物流部門が連携できていないために、全体最適が損なわれる事例です(逸見さん)

この事例で全体最適を図る方法について、逸見さんは「3,000個を一括で購入し、倉庫への納品を1カ月あたり1,000個で3回の分割納品にすること」と説明。保管代や在庫回転率についてバイヤーが理解し、仕入れ業務と倉庫業務の関連性を意識して仕入れを行うことで、全体最適(営業利益)の最大化につながると説明しました。

会社全体で利益を生み出すためには、各業務がつながっていることを理解し、営業利益や在庫回転率などの共通指標に設定して業務改善に取り組むことが必要です(逸見さん)

第3講座ではこのほか、物流業界のトレンドや、企業にとってECの役割が変化していることなども紹介。
ロジスティクス戦略から物流オペレーションの改善方法、さらにマーケット視点での物流の解説まで、幅広く網羅した講座でした。※画像をクリックで拡大表示

 

▲ ECの役割の変化や、オムニチャネル化によってサプライチェーンマネジメントが変化していることなども解説した

第4部 間違いだらけの物流DXと企業価値を高める物流の本質

第4講座は、物流コンサルタントの小橋重信さんが講師を務め、企業がDXに挑戦する意味や、オムニチャネルに取り組む企業が目指すべき物流のあり方など、物流の本質論を解説してくださいました。


株式会社リンクス
小橋 重信(こばし しげのぶ)氏
アパレル会社での在職中に上場から倒産までを経験、在庫が滞留することの怖さを知る。その後 通信サービス事業会社にてIT営業経験を経て、アパレル物流のOTSに移り、多くの荷主の物流導入から業務改善を進める。IT企業での知識と、ファッション業界でブランド運営、物流会社の実務経験を活かした現場視点での課題解決を強みとする。現在は、『物流からすべての企業を元気にする!』 をビジョンにかかげ、「ファッション×IT×物流」の分野で物流コンサルとして活動中

物流をデザインして競争優位を生み出す

小橋さんは冒頭、企業のデジタル化には「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション」の3段階があると説明。デジタル化に取り組む際は、「自社が今どの段階にいるのか理解しておくことが重要」と指摘しました。

また、アリババグループ創業者のジャックマー氏が提唱した「ニューリテール」に言及し、「小売においてオンラインとオフラインが融合し、物流が結びつくビジネスモデルが競争力につながる」と説明。アマゾン、デル、アスクルなどが物流に投資を続け、独自のビジネスモデルを構築して成長を続けていることを紹介した上で、物流の重要性を次のように強調しました。

モノ(商品)そのものの価値ではなく、物流をデザインし、モノ(商品)を届ける方法によって自分たちの強みを生み出しています(小橋さん)

シームレスな買い物体験の実現に必要なことは?

実店舗とECサイトの在庫情報をリアルタイムで表示するなど、シームレスな買い物体験を実現するには、受注データを一元管理し、自社倉庫と外部倉庫の在庫をリアルタイムで管理するシステムが必要になります(小橋さん)

小橋さんは、小売企業のビジネスモデルがシングルチャネルからマルチチャネル、クロスチャネル、オムニチャネルへと変わっていくなか、実店舗、自社EC、モールの在庫情報や顧客情報を統合し、買い物体験を高めるには、オーダー管理システムや倉庫管理システムなど、さまざまなシステムを連携させる全体設計が必要だと説明しました。

▲ システムが複雑に絡み合っており、シームレスな顧客体験を実現するには全体設計が必要

また、オムニチャネルによって買い物のあり方が変化し、物流は「顧客中心」へと変化していると説明。
従来の物流は商流を支えるものでしたが、これからはテクノロジーの進化も相まって、物流と商流が融合(商物融合)してサービスを提供していく時代になると強調しました。

テクノロジーの進化によって、企業の物流との向き合い方も変わっています。ビジネスを行うときに、物流がどうあるべきか。物流と商流が融合し、どのようなサービスを提供できるか。それを考えていく必要があります(小橋さん)


▲ オムニチャネルによって買い物のあり方が変化し、物流は「顧客中心」へと変化している

「物流のシェアリング」で自動化・省人化

近年、物流費の高騰や労働人口の減少などを受け、物流業界ではロボットやAIを活用した自動化・省人化が急速に進んでいます。ただ、物流倉庫の自動化・省人化の設備投資には莫大な費用がかかるため、実現できるのは一部の大手EC事業者に限られています。
そういったなか、中小EC事業者が自動化・省人化の設備を使えるように、物流設備のシェアリングが進んでいることを小橋さんは紹介しました。

EC事業者ごとに物流設備を導入するのではなく、保管スペースや設備、倉庫スタッフなどを複数の企業で共有するシェアリングロジスティクスが広がっています。今後は物流を標準化、共有化していくことがトレンドになっていくと思います(小橋さん)

▲ 中小EC事業者が自動化・省人化の設備を使えるように、物流設備のシェアリングが進んでいる

小橋さんは、自動化・省人化設備のシェアリングサービスを含め、「物流の領域で革新的なことが起きている」と強調し、小売企業を取り巻く環境が激変する中、「新しい領域に挑戦するかが問われていると思う」と訴えかけ、第4講座を締めくくりました。

パネルディスカッション ”DX”だけでは勝てない!市場で勝ち残るための物流戦略

オンラインセミナー最後のプログラムは、登壇者4人によるパネルディスカッションです。伊藤さんがモデレータを務め、長井さん、逸見さん、小橋さんの3人がスピーカーとして参加。

物流の課題を抱えるEC事業者が実施すべきことや、中小EC事業者でも始められる物流改善の施策について議論を深めました。EC事業のフロント側と物流が連携してデジタル化に取り組む「物流のDX」の実現方法について深掘りしたディスカッションの一部をレポートします。

物流改善に経営層を巻き込む方法は?

物流セミナー登壇陣

伊藤さん:
物流のDXを進めるには、経営層にも関与してもらう必要がありますが、物流のDXに経営層を巻き込むには、どうすればいいでしょうか。

逸見さん:
物流を改善するとキャッシュフローや利益が改善するという話に、関心がない経営者はいないはずです。まずは、物流を改善すれば利益が増えるということに、気づいてもらうことが重要でしょう。物流の課題が多いほど、利益の伸びしろあるわけですから、物流の課題は「宝の山」だということを理解してもらうと良いと思います。

伊藤さん:
皆さんの講座に共通していた論点として、物流のDXに取り組むには、まずは物流の現状を可視化することが必要とのことでした。

長井さん:
物流課題の解決策を考えるには、まずは物流の現状を把握しなくてはいけません。現状がわからないと、あるべき姿も見えてこない。在庫回転率や棚卸の結果を数値化し、やるべきことを具体的に決めていくための第一歩が「デジタライゼーション」ではないかなと思っています。

小橋さん:
物流の業務フローを可視化すると、注文処理の過程でそれぞれの部署の動きを俯瞰的に見ることができるようになり、会社全体の課題も見えやすくなると思います。

返品対応を物流フローに組み込んで強みにする

伊藤さん:
物流倉庫の課題として、返品・返金の管理もありますね。

逸見さん:
返品や返金は「イレギュラーなフロー」として処理している会社が多いと思いますが、ECでは返品返金が必ず発生するので、むしろ返品・返金の処理を業務フローに組み込んでしまった方が良いと思っています。

重要なことは、返品・返金に素早く対応し、お客さまを次の購買につなげること。お客様は申し訳ないと感じられながら返品していることも多いので、返品・返金を素早く対応すると、そういったお客さまの満足度が高まり、次の購入につながることも多いはずです。

長井さん:
返品対応を洗練させると、会社の強みになりますよね。

伊藤さん:
小橋さんがおっしゃっていた、顧客に対するサービスを中心として、物流を設計していくということですね。

物流現場の自動化・省人化

伊藤さん:
物流のDXは、どの程度浸透しているでしょうか。

長井さん:
倉庫内業務を自動化・省人化する取り組みは、二極化しています。SOP(標準業務手順書)やSCM(サプライチェーンマネジメント)のデータを連携できている一部の企業は自動化・省人化の設備を導入していますが、SOPやSCMが整備できていない企業では自動化・省人化の導入は進んでいません。

逸見さん:
商品部門、カスタマーサポート部門、物流部門、販促部門が連携し、オペレーションが整っていないと、ロボットを導入しただけでは、物流は改善しませんからね。逆に、オペレーションが整っていれば、いつでも物流のDXに着手できます。

長井さん:
人が足りないから局所的にRPAを入れるなど、場当たり的な対応になると失敗しやすいですよね。物流を改善することで、どのような商流を実現したいのか。また、顧客とどのようなコミュニケーションを取りたいのか、そのことを社内で議論した上で、社内のオペレーションを整備することが、物流のDXに取り組む際のの最初の課題だと思います。

小橋さん:
物流部門と他部署の社員が、お互いの仕事を理解することも重要ですよね。部署ごとの垣根を取り払って仕事をすることが必要だと思います。

フロントと物流が連携して顧客満足を高める

伊藤さん:
物流のDXに取り組むために何をすれば良いかわからないと悩んでいるEC事業者に向けて、それぞれメッセージをお願いします。

長井さん:
お金をかけてシステムを入れる前に、まずは物流の現状を可視化してください。
デジタイゼーションやデジタライゼーションが実現できていない企業は、まずはデータを集めることから始めてみると良いと思います。まずは現状を把握するためにデータを集めて、自社の強みを伸ばすために、物流の観点から何かできるのか考えてみると良いのではないでしょうか。

小橋さん:
「DX」という言葉がバズワードになっていますが、デジタルで何かやらなくてはいけないと焦って最新のツールに飛びつくのは禁物です。物流現場にロボットを入れても、前後のフローに問題があれば会社全体の生産性は上がりません。

大切なことは、顧客満足を上げたり、企業価値を上げたりするために、システムやデータを活用すること。「DX」という言葉に踊らされず、お客さまを喜ばせるに、物流のどこを、どのように変えれば良いかを考えてください。

逸見さん:
物流のDXは目的ではなく、あくまでも手段です。まずは数字やデータで自分たちのビジネスの現状を可視化し、課題を把握したうえで、改善が必要な場所をデジタル化していくことが重要です。局所的なシステム化は部分最適になりやすいため、共通指標を持って全体最適を図ってください。

伊藤さん:
まずは現状を可視化し、自社に必要なデジタル化の内容について、部署をまたいで議論ができる状況を作っていくことが大切ですね。そういった意味では、ECサイトのフロント側のプラットフォームを提供しているフューチャーショップさんが、物流をテーマとしたセミナーを主催してくださったことは、バックエンド側の業務に携わってきた私たちとしても大変ありがたいです。

本日聴講してくださった方の中には、販促やマーケティングなどフロント側の方もいらっしゃると思います。フロント部門と物流部門が手を携えて、顧客満足度が高まる物流のあり方を考えてみてください。

まとめ

今回のセミナーを聴講し、物流の現場にはECの業績改善につながる要素がたくさんあることをあらためて実感しました。そして、物流のDXとは、倉庫内業務の改善や自動化だけを意味するのではなく、会社全体の業務フローを見直す必要があることも学べました。

特に印象的だったのは、物流を改善するには物流に関連するすべての部署の協力が不可欠であることを、講師の皆さんが共通して訴えていたことです。DXによって実現したい企業の姿や、顧客に提供したいサービスのあり方を、経営層やマーケティング担当者、EC担当者、バイヤー、物流担当者が一緒に議論し、ビジョンを共有することがDXの第一歩なのでしょう。

株式会社フューチャーショップは、これからも物流をテーマとしたセミナーを開催していく予定です。今後のスケジュールはセミナーページで随時告知していますのでチェックしてください。

本記事はセミナーレポート前後編の「後編」です。ぜひ前編もご覧いただき、EC物流DXについて社内でご検討ください。
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EC物流を改善して業績アップ!物流のプロが解説する顧客視点の物流DX【前編】

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