IRCE参加レポート(3):年間成長率が550%! Blue Apronとは?

前回はアメリカのECサイト成長率ベスト5について紹介いたしました。さて、今回はその中で驚異の年間550%を達成したECサイト「Blue Apron」をご紹介したいと思います。

Blue Apronって、単刀直入に何がいいんでしょうか?(筆者は日本の同類のサービスは続かなかった…)

Blue Apronは2012年設立。ニューヨークが本拠地です。設立者でもあり、CEOでもあるのはもともと金融業界に身を置いていたMatt Salzberg氏。金融業界の人がなぜ?という疑問もありますが、彼はもともと料理が好きだったと紹介されています。

学生時代にもクリーニングのビジネスで優れた実績を挙げていたこともあるようで、家事もできる男性なのかもしれません。
また、ベンチャー企業としてシリーズD投資ラウンドを迎えており、合計で1,930,000,000ドル(日本円で約2,321億円)の投資を受けています。
Blue Apron logo↑ロゴはすっきりとしています。

食材の定期販売を本業とするBlue Apronですが、日本でもこのビジネスモデルがないわけではありません。
Web上で自分の欲しい食材を選んで配達してくれる企業は何社もあり、現に私も何回か頼んだこともあります。
どの食材もこだわり抜かれてとてもおいしかったのですが、しばらくして止めたことを思い出しました。その理由を考えてみると…

注文した理由

  • (すさんだ生活をしていたので)健康的な生活に憧れた
  • サプリメント中心の生活からおいしくて体にいいものを食べて健康になりたいと思った
  • 商品説明が良かった。写真や説明文を見て判断するに、価格は割高だけども近所のスーパーのものよりもおいしそうだった

止めた理由

  • クール宅急便はコンビニでも宅配ボックスでも預かってくれないし、その時間帯に家に拘束されるのが嫌
  • おいしさと食材の値段が当然のことながら比例。レシピを考えても足りない食材をさらに追加すると金額が大変なことになる
  • レシピを考えるのが面倒。仕事で帰る時間が遅くなったりするので、作る気力が残ってないこともある

と上記に上げた、「品質には満足」しているものの、「コストが高い」や「手間がかかる」といった理由で止めていた記憶があります。

そんなに料理は嫌いでもないのですが、今日のご飯は何がいいか、って毎日考えるのは大変ですし、ちょっと仕事が忙しくなると「今日は外食でいいやー」と思ったりして、食材があるのに作らないこともままありました。その結果で食材を腐らしてしまうのもストレスになりますしね。かといって、少量だけ買うには送料が気になって注文するのがためらわれます。

注文されるご家庭のお子様が小さいなど、買い物をしたくても外に出られない方に対しては非常にいいサービスかと思うのですが、私のような趣味で作る程度のビギナーには敷居が高いような気がしました。また、同様の食材+レシピを送ってくれるサービスに飛びつかなかったのは、定番の食事が並ぶので家族向けのイメージが強く、自分のスキルを考えると近くの定食屋に行った方が良さそうな気がしたからです。

と、ここまで考えてみてアメリカは料理をする人がそんなに多くないイメージを持っており、そして私と同じくらいの面倒くさがりが多いと信じて疑わない中、どうしてこのサービスが成長したのか、色々な面から考えていきたいと思います。

Blue Apronが急成長した理由は?商品の魅力は大きな理由の一つだけれども…

まず最近の時代背景を考えてみると、流れにうまく乗ったビジネスと言えるのではないかと思っています。
アメリカでは健康志向がさらに高まっており、2年ほど前、ニューヨークで実験的に始まったレンタルサイクルがここシカゴでも開始。週末は朝の7時頃になると公園近くではジョギングやヨガをする人を見かけ、おいしい朝ごはんを食べるため人気のお店では行列ができるほど。

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↑レンタルバイクの写真3枚。30分以内に返すなら無料で使えます。右下は最終日の朝ごはん。朝の7時半の時点で店内に入れない人がたくさんいました…

また、日本でも徐々に増えてきたサラダ専門店はアメリカで大人気。産地にこだわった野菜や肉を目の前でお店の人が一口大に切り、サラダを作ってくれるようなオシャレ(代償として13ドルくらいしました…)なお店でランチを食べる人が増えてきているようです。そんな「健康を意識し、食事も栄養があるだけではなく安全でおいしい物を食べたい」という機運が高まってきた中、普段料理を作る習慣がそれほどない人たちが「食材にこだわり、自分たちで料理を作る」というBlue Apronが自然に受け入れられたのかもしれません。


↑記とは少々前のサイトトップ。ビジュアル重視なのは変わらず。

ECサイトを見てみるとおいしそうな料理の写真、レシピが並びます。おいしそうな料理に引き寄せられてレシピを読んでみるとそんなに難しいスキルは必要なさそう(筆者は大根の皮剥きをピーラーでするレベルです)で、私のような気分で料理をする(基本目分量と舌で判断)初心者でも「これだったらできそうかな…」という気持ちにさせてくれます。レシピの中には、CEOが香港に住んでいたこともあるからなのか、アジア料理も少なからず見かけます。

また、必要な食材はレシピに必要な物を全て用意して送ってくれるとのこと。これなら商品到着後、箱を開けた時からストレスなく料理に取り掛かれますよね。必要な食材だけを選んで買うようなシステムではないのですが、ベジタリアン向けのコースの用意や、また、「これは入れないで欲しい」という食材もある程度選択できるようで、ある程度食材の地涌度は残しつつ、メインはレシピと料理を作ることに楽しむサービスなのでしょう。


↑カラフルな野菜が並びます。見た目にこだわった料理って、自分で材料揃えるの大変なんですよね…なので全部揃えてくれるのは嬉しいです。

レシピもとても分かりやすく書かれてあり、ところどころにあるワンポイントレッスンの動画は初心者がちょっとつまずそうなところを親切に教えてくれます(私もこの動画を見て、フードプロセッサーに任せていた玉ねぎのみじん切りにも挑戦してみたいと思います)。豊富なビジュアルを用意し、料理を楽しむ顧客の姿を想像させることで、購入につなげているのかと考えます。

細かいところとして、レシピはタブレットにも表示最適化されており、キッチンの横に置いて料理をするのに便利です。アプリは提供されていないようですが、今後アプリが開発された際には声に反応して次のレシピのステップに移動したりすると便利かなと思いました。濡れた手で防水ではないタブレットを触るのは勇気がいります。(2015年9月4日、アプリがリリースされていることを確認。最初に開けた時のアニメーションが好きなので確認してみてください)


↑Facebookにポストして4時間。382イイねとシェア数44、67ものコメントが。「きゅうりのサラダを作る際は塩で水分を取った方がヨーグルトドレッシングと合う」との顧客のフィードバックも自然に集まっています。

また、FacebookなどのSNS上では多くの顧客が一つ一つのポストにコメントを残しています。顧客がレシピを見て作った料理の写真やコメントをポストしているので、私も「参加してみたいなあ」という気持ちになりました。中には見本とかけ離れた創造性を発揮している料理もありますが、それはそれで作っている側は楽しい経験ですよね。

商品の魅力×シェアしたくなる顧客体験がBlue Apronの強み。

まとめると、うまく時代の流れに乗ったこと、また、ECサイトで商品だけでなくレシピやワンポイントレッスンといった料理をすること自体の魅力の伝え方が優れていること、そして何と言っても誰かにシェアしたくなるような顧客体験を提供し、企業と顧客の強い結びつきを実現していることがこのサービスが成長率550%に達した理由かと考えます。

それを示すかのように、SNS上での「イイね!」数も80万件、他の類似サービスが40万、20万と続くところから、Blue Apronはより多くの人に支持され、一つのコミュニティを作成していると言えるでしょう。販売の仕組みは真似できても、こういったコミュニティ構築や運用のノウハウで他社との差別化がされているのかな、と思いました。

Blue Apronは「ECサイトで購入する楽しさ」だけではなく、「作る体験を楽しみ」、「SNS上でその楽しさをシェアし」、その楽しさが既存顧客の友人に広まった結果「新規顧客が増え」たり「既存顧客のエンゲージメントが高まって定期購入の継続」というサイクルがうまく回っているような気がしています。購入前と購入後、それぞれのフェーズでチャネルを横断して一貫して優れた顧客体験を提供していることこそが、この企業全体の魅力に繋がっていると考えます。

その他のセッションも興味深い内容がありました。次回は「各チャネルの顧客データを統一化することで顧客をよりよく知り、顧客体験の向上を行うこと」を今後の競争力の源と位置付けた「BOSCH」の事例をご紹介したいと思います。

参考記事
英語ではありますが、アメリカでのBlueApronと類似サービスの比較をした記事があったのでシェアします。
FOOD WARS: I tried a bunch of subscription meal services, and one is way better than the others

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通信業界からクラウド業界に飛び込み、サービス企画などでいろいろと揉まれた後台湾に1年滞在し、どこの国でも外見が溶けこめる特技を取得。 その後フューチャーショップに勤務し、紆余曲折ありながらデータ分析・プロモーション・広報などを担当。
B級グルメ食べ歩き好き。外れても笑い飛ばせるのが特技。
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