「公式ECをブランディングの中心に」2030年を見据えたEC戦略と成長モデルの再構築を提言【セミナーレポート】
- 2026.06.05
2026.06.05

国内の物販EC市場が15兆円を超え、スーパーやコンビニなどと同等に生活者にとって身近な購買チャネルとなったEコマース。
市場の安定成長が続いている一方で、足元ではAIの急速な進化や顧客接点の多様化、コスト構造の激変など、さまざまな経営課題が噴出し、ECサイトの運営は従来の成功パターンが通用しにくくなっているのも事実です。さらなる飛躍をめざすには、中長期的な視点で成長戦略の見直しも求められています。
そこで株式会社フューチャーショップは、2030年を見据えた事業戦略のヒントをお伝えするオンラインセミナー「7つのキーワードから読み解くEC未来予測 成長戦略を再定義するセミナー」を2026年4月に開催しました。
スピーカーを務めたのは、自社ECサイトの総合支援を手がける株式会社久(きゅう)の立川哲夫さん。消費者から選ばれ続けるネットショップをつくるために、自社ECサイトの役割を“売る場所”から“販売チャネルの枠を超えたファンづくりのためのブランディングの場所”へと再定義する新たなEC成長戦略を解説してくださいました。
このセミナーレポートでは、ECサイトの強みを整理する「バリュープロポジション」や、ECサイトの資産価値をブランドの観点から評価する「ブランドスコア」など、すぐに実践できるフレームワークを含めて、セミナーの核心部分となる次のポイントを紹介します。
- EC成長モデルの再構築が必要な背景
- 公式ECを「ブランディングの中心」に再定義する新たな成長戦略
- 「ブランドスコア」でECサイトの資産価値を評価する方法
- データ利活用の基盤となる「ダッシュボード経営」の具体策

自社ECサイトの総合支援を手がける株式会社久(きゅう)の立川哲夫さん(写真右)がオンラインセミナーのスピーカーを務めた

株式会社久
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
立川哲夫 氏
15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。
リテール業界に10年従事した後、大手EC総合支援企業で10年以上にわたり経営幹部としてEC事業コンサルティングに関わりながら、企業のブランディング・マーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験した。
その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わる。2025年に株式会社久に入社、ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタントとしてクライアントの事業成長とブランディングを支援している。
執筆・編集に関わった書籍に「ECサイト [新]売上アップの鉄則119」(KADOKAWA)、「EC担当者 プロになるための教科書」「EC戦略ナビ」(マイナビ出版)などがある。日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などの業界メディアへの寄稿実績も多数。

目次
なぜ今、EC成長モデルの再構築が必要なのか
EC事業をとりまく環境が激しく変化するなか、これからのEC戦略を考える前提として立川さんが強調したのは、「これまでの常識や成功パターンが通用しないケースも増えている」ことです。
EC市場は安定成長を続けていますが、市場の成熟にともない競争激化や販促効果の低下といった、さまざまな課題も顕在化しています。これまでの常識や成功パターンが通用しないケースも増えています(立川さん)

EC市場は社会インフラへと成長した一方で、競争激化やコスト構造の変化など、さまざまな課題が顕在化していることを説明した
立川さんは、EC事業を伸ばすために押さえておくべき7つのキーワードに言及し、「2025年以前と2026年以降で様変わりした」と説明した上で、「従来の延長線上で戦略を立てるのではなく、先を見据えてECの成長モデルそのものを再構築する必要がある」と訴えかけました。
2026年は、中長期的な視点でEC成長モデルの再構築が求められるターニングポイントと位置付けています(立川さん)
【2026年以降に押さえておくべき7つのキーワード】
- EC市場「社会インフラとして進化」
- EC運営「ブランド公式ECを中心とした運営」
- ECサイト「ブランドコミュニケーションの場」
- マーケティング施策「ブランドスコアマーケティング」
- EC事業経営「ダッシュボード経営」
- バックヤード「ブランドCX向上のフルフィルメント」
- ECデータ「AIを用いたデータ利活用」

EC事業で押さえておくべきキーワードは2025年以前と2026年以降で様変わりしたことを説明した
これら7つのキーワードを踏まえ、立川さんは2030年を見据えたECの成長戦略を提言しました。このセミナーレポートでは、ECの成長戦略における中心的なテーマとして語られた次の3つのポイントを紹介します。
- 公式ECの役割を「ブランディングの中心」に再定義する
- 「ブランドスコア」でECサイトの資産価値を評価する
- データ利活用の基盤となる「ダッシュボード経営」を導入する
公式ECの役割を「ブランディングの中心」に再定義
2030年を見据えたEC戦略の中核は、公式EC(自社ECサイト)の役割を再定義することです。
立川さんはEC市場に対する現状認識として「オンライン上に商品が溢れ、他社との差別化が年々難しくなっている」と指摘した上で、「顧客から選ばれる理由を、これまで以上に明確化する必要がある」と強調しました。
自社製品や自社ブランドが第一想起※を得るためのブランディングが不可欠であることにも言及し、「ブランディングにおいて公式ECが中心的な役割を果たす」と述べました。
※第一想起:消費者が特定の商品カテゴリを思い出すとき、「○○と言えば、××のブランド」といったように、最初に頭に浮かぶ商品やブランドのこと
公式ECをブランディングの中心に置き直すことが、2030年に向けた成長戦略の軸になります(立川さん)
立川さんは、従来型のEC事業の成長モデルについて「自社ECサイトやECモール、SNS、実店舗など複数の販売チャネルを横並びで展開する多店舗展開が主流だった」と説明し、「公式ECは販売チャネルの1つに位置付けられることが多かった」と指摘しました。
従来型のEC事業の成長モデルを進化させ、自社ECサイトの役割を「売る場所」から「ブランド資産蓄積の場所」へと再定義することが必要です(立川さん)

公式EC(自社ECサイト)を「ブランディングの中心」に再定義することを提言した

従来型のEC事業の成長モデル
公式ECがブランディングに効果的な理由
自社ECサイトはECモールやSNSなどと比べて、ページのデザインやコンテンツの自由度が高く、ブランドの世界観を表現しやすいことが強みです。ECモールやSNSなどの利用規約に縛られることなく独自のサービス展開が可能であり、ブランド体験を自由に設計することができます。
ブランド体験を自由に設計できる公式ECは、企業価値向上の強力な武器になります(立川さん)
ECは「商品を受け取って開封する」「商品を実際に使う」といった“リアルな体験”が発生します。そういった体験を設計することでブランドと顧客の関係性を強化していける点も見逃せません。
梱包資材や同梱物などに工夫を凝らし、商品を開封したときの感動を生み、思わずSNSでシェアしたくなるような仕掛けをつくる。こうした「モノを介してブランド体験を設計できる」というECならではの強みを活かすことでファンを増やすことができます(立川さん)

ブランド体験を自由に設計できる自社ECサイトはブランディングの強力な武器になる

商品を「届ける」という切り口でファンを増やす具体策も解説した
バリュープロポジションで公式ECの強みを整理
自社ECサイトの強みを整理する方法論の1つとして、立川さんは「バリュープロポジション」の活用を推奨しました。
バリュープロポジションとは、企業が顧客に提供する独自の価値を整理するフレームワークです。①自社が提供できる②競合が提供できない③顧客が求めている─という3つの条件が重なる領域を整理し、「顧客から選ばれる理由」を明確化します。
バリュープロポジションの重要性について立川さんは次のように説明しました。
利益を出している会社は「○○と言えば自社の公式EC」というように、顧客から選ばれる明確な理由を持っています。逆に、それがない会社は収益力が高まりにくいことが知られています(立川さん)

バリュープロポジションで公式ECの強みを明確化することの重要性を説明した

バリュープロポジションで公式ECの強みを整理するワークシート
「ブランドスコア」でECサイトの資産価値を評価
立川さんが解説したEC戦略において、欠かせないパーツの1つが「ブランドスコア」です。
ブランドスコアとは、ECサイトの資産価値をブランドの観点から定量的に評価する当社独自開発のEC評価指標。ブランドロイヤリティに関連する指標をKPIに設定し、中長期で積み上がるブランドの価値を数値で評価します。例えば、「ブランド指名ワードの流入数の推移」「ロイヤル顧客比率」「UGC創出数」といった評価指標があります。
EC事業のKPIとしてブランドスコアを用いると、ブランディングにおいて実行すべき施策が明確になり、施策の効果を定量的に検証することも可能になります。
【ブランドスコアの評価指標(例)】
- ブランド指名ワードの流入数の推移
- 会員登録数
- ロイヤル顧客比率
- F2・F3購入率
- SNSのエンゲージメント指数
- UGC創出数
- AI検索の言及率・流入数

ECのKPIは新規流入数や購入客数、コンバージョン率、購入単価といった売上に直結する指標だけでなく、公式ECの資産価値をブランドの観点から評価する「ブランドスコア」も重要であることを解説した

株式会社久が十数年かけて蓄積した「伸びているEC事業の特徴」から導き出した36項目の評価指標を使い、ブランドスコアを可視化するダッシュボードを近日中に提供を開始することも明かした
データ利活用の基盤となる「ダッシュボード経営」を導入
2030年を見据えたEC戦略において、データ利活用のあり方を見直すことも重要であると立川さんは指摘しました。
オンラインとオフラインの両面からブランド体験を高めていくには、顧客ごとに最適化されたCRM施策を打つことが大切です。そういったCRM施策の基盤となる会員情報や購買履歴、行動データなどの一次データを収集するチャネルとしても自社ECサイトは重要だと強調しました。
AIツールがマーケティングの現場に浸透し、データにもとづいて意思決定する「データ・ドリブン経営」の重要性が一層高まるなかで、一次データを収集・蓄積するチャネルという意味でも公式ECは重要な役割を果たします(立川さん)

自社EC・ECモール・実店舗などの各販売チャネルから得られる商品データ、在庫、受注データ、購買データ、アクセスデータなどを一元的に蓄積し、分析できるデータ基盤を整えることの重要性を解説した
立川さんは、近年のEC業界ではデータ・ドリブン経営の重要性が広く認識されているとしながらも「社内でデータが分断されている企業が多い」ことを課題に挙げました。
ECシステムや基幹システム、倉庫管理システム、マーケティングシステムなどのデータが一元化されていないために、データを活用しきれていない企業は珍しくありません。各種システムから個別にデータを抜き出し、Excelで集計してレポートに仕上げるといった非効率な運用を続けている企業もあるようです(立川さん)
こうした属人的な運用から脱却するには、社内に点在するデータを1つのデータ基盤に集約し、関係者全員が同じ画面を見て施策を回す「ダッシュボード経営」が効果的だと言います。
ダッシュボード経営を取り入れると、手作業によるデータ集計の時間が減り、効率的かつ迅速に施策を打つことができます。また、データを一元管理することで顧客分析の精度も上がります(立川さん)

「ダッシュボード経営」を実現するためのデータ連携の具体的な方法として株式会社久が提供している「ECコネクター®」も紹介した
戦略・戦術のフレームワークをダイジェストで紹介
今回のオンラインセミナーでは本稿で紹介した内容のほかにも、事業戦略や商品戦略などを策定する、さまざまなフレームワークを解説しました。また、セミナーの内容を社内ですぐに実践できるように、立川さんが作成した140のチェック項目付き資料も参加者特典(アンケート回答者限定)として提供しました。その一部を紹介します。
【EC事業全般】

EC事業における5つの戦略と7つの戦術を整理するワークシート
【商品戦略】

経営資源を集中する商品戦略ワークシート
【140のチェック項目】

セミナーの内容を社内ですぐに実践できる140のチェック項目付き資料を参加者特典(アンケート回答者限定)で提供した
質疑応答ハイライト:現場の悩みに答えるヒント
セミナーの終盤は、参加者の皆さまから寄せられた質問に立川さんが回答するQ&Aコーナーを行いました。質問と回答の一部を紹介します。
Q:ナショナルブランド品の仕入れ販売が中心です。バリュープロポジションをどのように作ればよいでしょうか。
仕入れ商品の場合、商品以外で差別化できるポイントを探すのが王道です。例えば、家具や家電の「下取りサービス」を行うなど、顧客ニーズをとらえたサービスを提供すると差別化できます(立川さん)
Q:公式ECの集客を増やす方法を教えてください。
まずはバリュープロポジションを明確にし、その後は広告運用やSEOに取り組むのが王道です。AIO(AI検索最適化)も重要です。商品名やブランド名をAIに学習させるために、それらを含んだコラム・プレスリリース・レビューなどのコンテンツをWeb上に増やしてください(立川さん)
Q:BtoB商材でもファンマーケティングは可能でしょうか。
可能だと思います。BtoBのファンマーケティングは、人と人の対話を通じたコミュニケーションが価値を生むと考えています。AIで定型業務を効率化し、捻出した時間で顧客との対話を増やすと良いのではないでしょうか(立川さん)
Q:これからのEC運営に求められる人物像を教えてください。
顧客接点を設計できる人材が一層求められると思います。データ分析や画像制作など定型業務はAIへの置き換えが進み、その一方で、ブランドの価値を理解し、顧客としっかり向き合える人材の価値は高まっていくと考えています(立川さん)
自社ECサイトをブランド育成の基盤に
セミナーを通じて立川さんが訴えかけたメッセージは、事業環境が目まぐるしく変わるときだからこそ、目先の売上や利益にとらわれすぎず、中長期的な視野を持って、ビジネスの本質に立ち返ることの重要性でした。
自社ECサイトの役割を「売るための場所」から「ブランド資産蓄積の場所」 へと進化させていく考え方は、多くの企業にとって示唆に富むものだったのではないでしょうか。消費者から選ばれ続けるお店をつくるヒントとして、自社ECサイトをブランド育成の基盤として活用する成長戦略を、今後のEC運営にぜひ取り入れてみてください。




