ECサイトの表示に不備があると契約が無効になることも。特定商取引法の改正内容とは?【EC関連法の解説】

EC・ネットショップ運営お役立ち資料ダウンロードEC事業を手がける際は、さまざまな関連法規を遵守する必要があります。EC事業者さまに影響する法律の動向について、一般社団法人ECネットワーク理事の沢田登志子さまに寄稿していただきました。第1回のテーマは、ECサイトの表示に関わる、特定商取引法の改正についてです。

本稿は株式会社TradeSafeのウェブサイトに掲載されたコラム知っておきたいEC関連法 その1.特定商取引法 ~誤認を招く表示で消費者に取消権~を転載したものです。見出し、画像、外部サイトのURL表記はE-Commerce Magazine編集部が編集しています。 

特定商取引法 誤認を招く表示で消費者に取消権

こんにちは。TradeSafeトラストマークの提携アドバイザー、ECネットワークと申します。ネット関連の法改正など、霞が関の動きをウォッチしています。

Eコマースに関する法律といえば特定商取引法ですが、景品表示法や医薬品・医療機器等法の広告表示規制も気になるところです。個人情報保護法の改正も頻繁に行われ、プラットフォームを対象とする新しい法律が複数できるなど、近年、動きが速くなっています。

その中から、ネットショップの皆様にぜひ知っておいていただきたい内容を、数回に分けてご紹介します。

今回はまず特定商取引法、正式には「特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)」についてです。表示義務が厳しくなり、違反には罰金が課されるほか、消費者の取消権も新設されました。

Ⅰ.表示義務の強化

(1)平成28年改正(定期コースに関する表示義務追加とガイドライン)

皆様のサイトには、「特定商取引法に基づく表示」といったメニューが設けられていることが多いと思います。ご承知のとおり、特定商取引法第11条には、通信販売(Eコマースは通信販売に入ります)を行う場合、商品価格や送料、代金の支払方法、商品の引渡時期、返品特約などを表示する義務が定められています。

このほか省令(施行規則)で、販売事業者名や責任者名、住所や電話番号を表示する義務も課されています。価格や納期は個々の商品ページに記載しますが、販売者に関する情報や共通の返品ルールはまとめて書かれていた方がわかりやすいので、独立ページの構成にされているのだと思います。

前回2016年の特定商取引法改正で、省令の表示義務事項が1つ追加されました。「商品の売買契約を2回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び金額、契約期間その他の販売条件」です。

「売買契約を2回以上継続して締結する必要があるとき」というのは、定期コースを念頭においたものです。契約は1回ごとでも、2回目3回目も続けて契約することが前提となっているのであれば、その条件(何回コースか&コース総額、解約可否など)を表示しなくてはならない、というルールができたのです。
これについては、ガイドラインが示されています。消費者が最終的に注文ボタンを押す前に確認できる画面(いわゆる最終確認画面)で何をどのように表示するのが望ましいか、どうだったらNGか、画面例もあります。

(2)令和3年改正はほぼ全てのEコマースが対象

今年6月に成立した最新の改正法で、表示義務が更に厳しくなりました。上記のようなガイドラインを設けても、定期購入に関する消費者トラブルは一向に減らず、むしろ増える一方、という事情が背景にあります。今回新たにどのような規制が設けられたのかを見ていきます。

まずは規制対象となる場合について。新設された第12条の6に、「特定申込み」という定義が置かれました。「特定」と言っても特別なことではなく、申込みの様式を販売事業者が定めていれば全て「特定申込み」に当たります。メールやFaxで自由に書かれた注文は除かれますが、Eコマースでは、通常、販売事業者が申込みフォームを設けているので、ほぼ全て「特定申込み」に当たり、第12条の6の表示義務が課されることになります。

検討段階では、今回の法改正の目的は「詐欺的な定期購入商法に対応するため」と言われていました。定期コースという販売形態に対して厳しい規制になることは予想されていましたが、成立した条文では、定期販売を行っていない事業者も広く対象となっていたのは想定外でした。

(3)新たに規定された表示義務

第12条の6で新たに表示が義務づけられた事項の1つは「分量」です。購入商品数を決めずに買うことは普通ないので、分量の記載は当たり前のように思います。が、定期コースの場合、「コース全体を通して何個購入することになるのか」が注文時にわかりにくいというトラブルが多いので、あえて規定されたものと思います。

もう1つは、第11条の表示義務の中で省令事項以外のものです。従来の①価格・送料、②支払時期・方法、③引き渡し時期、④キャンセルや返品の条件に、今回、第11条に追加された「商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約に係る申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨及びその内容」を加えて5項目となりました。

この「申込みの期間に関する定め」とは何でしょうか。典型的にはタイムセールが想定されているようですが、詳細は、追って消費者庁から公表されるガイドラインを参照してください。

※ 以下、編集部による追記
記事掲載時、「タイムセールが想定されている」と記載しておりましたが、消費者庁が公表されたガイドラインにより、「タイムセール」は「価格」についての定めであることから販売そのもの自体の期間限定発売ではないため対象外であると訂正いたします。
 

(4)表示する画面の指定

第11条には「どの画面に表示しなさい」という指定はないので、商品ページに記載していれば、法の要求は満たされると考えられます。

これに対し第12条の6では、上記 3.に記載した事項を「特定申込みに係る書面又は手続が表示される映像面」に表示しなければならないとされました。これがどの画面を意味するのかについても、ガイドラインで解説されることになっています。

(5)誤認させる表示は禁止

第12条の6には続きの第2項があります。「特定申込みに係る手続が表示される映像面」の表示に関し、次の2つの禁止事項が定められました。

1)手続にしたがった情報の送信が申込みになることについて誤認させるような表示

2)分量や価格など表示義務事項について誤認させるような表示

例えば、チャットで求められるままに名前や住所を入力したら、いつのまにか申込みになっているといったケースは1)に該当し、初回お試し価格だけが目立つように表示され、定期コースであることが書いてはあるが小さい字で目立たない、といったケースは2)に該当すると思われます。

このように誤認させる表示を行った場合は、100万円以下の罰金が課されます。誤認させるかどうかは客観的に判断しにくいですが、ショップにとって注意が必要なのは、罰金よりも、IIで述べる取消権だと思います。

Ⅱ.消費者の取消権

これまで通信販売にはなかった取消権が新設されました。第15条の4です。全て第12条の6の特定申込みにかかってきます。「特定申込みに係る手続が表示される映像面」に、①必要な表示がない、②虚偽が書かれていた、③申込みになることがわからなかった、④誤認させる表示であった。このいずれかのせいで勘違いして申込んだ消費者は、その意思表示(申込み)を取り消すことができる、という規定です。契約は「なかったこと」になるので、商品は返品され、支払済の代金があれば返還することになります。

ポイントは上記の④ではないかと思います。初回お試し価格だけが目に入り、定期コースであることに気づかずに注文した消費者の救済策と言えるかも知れません。「ここに定期コースと書いてあるではないか(ちゃんと読まない方が悪い)」という主張は、表示の仕方によっては、これまでよりも通りにくくなるのではないかと思います。

Ⅲ.解約条件に関する不実の告知を禁止

もう1つ新設された条があります。第13条の2、「申込みの撤回又は解除を妨げるため、不実のことを告げる行為をしてはならない」という規定です。広告には「いつでも解約できます」と記載があるのに、いざ解約を申し出ようとすると厳しい条件がついていて解約できない、といったケースが該当するようです。実際に多く寄せられていた苦情は、「電話でしか解約できないのに電話がつながらない」というものでした。

以上、改正特商法の通販部分について、主な内容をご紹介しました。ショップの皆様には、表示内容などを見直す機会としていただければ幸いです。現行ルールについては、消費者庁の以下サイトに詳しく解説されています。

今回改正部分については、施行期限は来年2022年6月です。今後公表される公式な解説やガイドラインを参照し、それらにしたがった運用を行っていただくことお薦めいたします。

2021.10.18

一般社団法人ECネットワーク理事 沢田登志子