Eコマースで利用されているチャットボット(Chatbot)とは

チャットボット(Chatbot)とは何か

最近ECでも活用方法が話題になりつつあるチャットボット。チャットと名が付くように、会話のやり取りでユーザーの目的を実現する。そして相手は人ではなく、botと呼ばれるプログラムが対応する。
これまでWebでの情報取得やショッピング、そしてチケットの手配などはいつでも手軽に利用できる反面、実現したい目的に対して検索、比較や購入などは利用者が能動的に行動する必要があった。Webを使いこなしている人にとっては自分の都合のいい時間に、最短ルートで目的を達成できる。

しかし、そうでない人にとっては、例えば、ゴールデンウィークに海外旅行に行きたいと考えた時の少々込み入った手配は難しいのではないか。例として、下記のような条件を挙げてみる。

海外旅行の条件
“目的地まで向かう一番安い飛行機で、経由地は多くて1箇所。ただし、マイレージはスターアライアンスのものを貯めているから航空会社は指定したい。昼頃到着する便を希望。そしてホテルは4泊分、朝食も付いてるタイプで安く、そしてビーチに近いところ。できれば空港からホテルまで片道の送迎があればいいな”

このような条件が絡み合っている要望に関しては、Webでの予約を利用するのではなく、旅行代理店に電話したり、窓口に足を運んだりするのではないだろうか。その理由は、Webでは目的に合う情報や商品を検索するスキルが重要になってくるからだ。

そのスキルとは、サービスを提供するサイトを使いこなしているか、目的に合う検索すべき文言を知っているか否かなどWeb特有のスキルのありなしで得られる結果が異なってくる。

結果、悪い方に転ぶとユーザーは見つけたいものが見つからずに諦めたり、(本当は条件に合うものが存在しているのにも関わらず)妥協した選択肢を選んだりすることで、Web利用者の満足度が上がらないという結果になったりする。

いっぽう、これが電話や窓口では割とスムーズに手配ができたりする。なぜなら、スタッフとのコミュニケーションの中で自分はどのような旅行をしたいのかを聞いてもらい、目的まで誘導し、時にはスタッフがより魅力的な選択肢を提案してくれるからだ。
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ECチャットボットのメリット

EC(電子商取引)においてチャットボットを導入するメリットは「ユーザーのオンラインショッピング体験の向上」です。具体的には、次の3つがあります。

深夜や早朝でも対応可能

カスタマーサポートだけだと、営業時間内でしか顧客からの相談・質問に対応できません。その結果、顧客が不満を覚える可能性もあります。

チャットボットは、顧客からの質問や疑問に自動的に応答します。これにより24時間365日対応可能となるため、顧客の満足度が向上するのがメリットです。

社内業務削減

チャットボットを導入することで、カスタマーサポートの業務効率化につながります。業務効率化によって「離職率の低下」「人件費の削減」といった効果が見込めます。

カスタマーサポートのスタッフはチャットボットの導入により空いたリソースで別の業務を推進できます。少人数で運営している事業者にとっては特にインパクトが生まれるでしょう。

ユーザーエクスペリエンスの向上

ECでチャットボットを活用することで、ユーザーエクスペリエンスの向上に役立ちます。ユーザーが商品を検索してから購入するまでのプロセスを、チャットボットが効果的にナビゲートできるように支援します。また、個別のニーズに合わせて商品のレコメンド提案も可能です。

チャットボットが目指すところとは

チャットボットは人とのコミュニケーションと、Webの手軽さのいいとこ取りをめざしたサービスだ。例を挙げてみると、ファッションブランドで提供されているチャットボットはあたかも人とやり取りするかのごとく、Web上でコミュニケーションする中でユーザーの要望に合うと推測される商品を提案してくれる。

そして、チャットボットには相手が人ではないというメリットも存在している。何回も同じ質問しても、新しい提案をしてもらっても相手の機嫌を損ねて気まずい思いをすることはない。ショッピングであれば冷やかし半分の気持ちでも、相手の時間を使っているという気持ちもなく、商品について気兼ねなく質問できる。「ウザがられ」たり「押し売りされる」心配もなく、気になることが聞けるというのは、私のようなコミュニケーション弱者にとっては大きなメリットだ。

現在、世に出ているチャットボットの使われ方を調べてみると、全てのやり取りをチャットボットだけで完結するのではなく、定型的な部分はチャットボットが担当し、込み入った話になると人が担当するなど、その使われ方は様々だ。

今回は、Webチャットというインターフェースがすでに多くの人に使われており、チャットボット普及のキーとなるであろう世界のメッセンジャーアプリと、それぞれのメッセンジャーアプリでどのようなBotが提供されているかを調査した。

チャットボット対応メッセンジャーアプリ一覧表

チャットボット対応メッセンジャーアプリ一覧表
※1 本社機能がドイツにあるということから。サービス自体はロシア人兄弟が開発

LINE

https://line.me/ja/

チャットボットでは宅急便の再配達申し込み、食事の宅配サービスなどが利用できる。

また、企業やEC事業者の公式アカウントが顧客とコミュニケーションを取るためにも利用されている。「Official Web App」機能で会員のIDとLINEアカウントを連携し、属性に合わせたメッセージを送信する事もできる。

チャットボットを活用したECの事例はまだ少なく、今後の活用が期待される。

Kik

https://www.kik.com/

ファッションや美容、ライフスタイルなど企業がチャットボットを提供。10代〜20代をメインにしている企業が多く、割と年代層が低めの印象を受ける。

検索画面
↑チャットボット検索画面。

チャットボットは日本と同じく、食品の宅配サービスも利用可能。最初に食べたい食品を選ぶとユーザーの近くの飲食店から一覧を検索し、配達してくれる様子。

残念ながら利用できる店舗が大阪にはなく、決済がどのようにされているか(前払いか、代金引換か)が分からなかった。

ECでの活用では、H&Mのアカウントではコミュニケーションの中で顧客の好みにあった商品を提案してくれる。購入まではメッセンジャー内で完了せず、H&Mのサイトに遷移して購入する。

H&M
↑H&Mのアカウント。

botからの質問に答えることにより、好みに近いと判断された商品を提案してくれる。文字を入力する必要はほとんど無く、選択肢をタップすることで会話がゲームのように進んでいく。

また、16歳のアイドルのアカウントとメイクアップについて会話する中で、メイクスキル上達のための動画を見れたり、クーポンを配布してくれたりする。
一度試してみたが、botということを意識させず、自然な流れでブランドへの理解を深め、購入に結びつけるコミュニケーションを行っているように感じる。ただ、これはECのクーポンではなく、実店舗で利用できるとのこと。
ブランド理解につながるコンテンツが展開

Telegram

https://telegram.org/

チャットボットとして公式ストアに登録されている数は英語のもので3840(2016年10月26日現在)にものぼる。ただ、ほとんどがエンターテイメントや教育のもので、企業やブランド公式、そしてECに関するアカウントはほとんど見当たらなかった。

また、スマートフォンアプリ内からチャットボットの検索ができず、その点は手軽さに欠ける。

Telegram
↑次々とコーディネート提案をしてくれるチャットボット。が、「白」と言っても聞いてくれず、白以外を提案されるなど、コレジャナイ感

Messenger

https://www.messenger.com/

元はFacebookのメッセンジャー機能。2014年4月、アプリとして機能が独立。案外知られてないこととして、現在ではFacebookアカウントがなくても利用可能。
チャットボットでは商品を注文し、家に届けてくれるFacebookビジネスアカウントもあるが、自分が試してみたところは米国内の住所のみ対象のようだ。

ECに関わりそうな機能は、チャット上の送金も現在友達同士で行える機能を米国で提供。
現在はできないが、今後、商品購入時の決済もMessenger内で完結すると発表。利用者が世界に膨大にいるだけに、今後の動向から目が離せない。

Messenger
↑スマートフォンアプリ内でbotの検索も可能。

Messenger
Messenger
↑日本で展開しているブランドもチャットボットがあり、試してみたが現在は英語のみで反応。また、提案された内容も目的のページには飛ばず、日本版のサイトトップに誘導される。

WeChat

http://www.wechat.com/ja/

スマートフォンアプリ内からチャットボットの検索が可能。チャットボット一覧が集まったページを見つけられなかったため、どれくらいチャットボットがあるかは不明。
食品の宅配サービスのアカウント、その他に公共サービス系(例えば、市役所)で行える手続きを教えてくれる情報提供アカウントが確認できた。ECで活用しているアカウントは見当たらなかった。

現在中国ではWeChatを利用した「WeChat Payment (中国語名:微信支付)」が街中いたるところで利用可能。中国電子決済の知名度では「ALIPAY(中国語名:支付宝)」と双璧をなしている。
上海 水餃(水餃子)
上海 水餃(水餃子)2
↑「上海 水餃(水餃子)」と話しかけてみたところ、レストランを何件か紹介してくれる。日本には対応していないらしく、「大阪 水餃(水餃子)」と話してみても「見つかりませんでした」と返されてしまい…

Allo

アシスタントbotが存在。チャットの内容の文脈を理解して答えてくれる。ようやく日本語にも対応。サービス紹介ページが用意されていないのは、これから本気出すのか。

例えば、「品川までどうやって行くの?」とタイプすれば、現在地から品川までのルートを教えてくれ、その後、すぐに「高田馬場までどうやって行くの?」と質問すると品川から高田馬場までを教えてくれる。
他のアプリでは、聞かれた質問に対して答えるだけで、今までの文脈は無視することが多い。前述した2番目の「高田馬場までどうやって行くの?」という質問には「現在地から高田馬場行き」のルートを教えてくると想定される。人間は文脈からの判断を当たり前のように処理しているが、チャットボットではまだまだ難しいようだ。


↑「品川までの行き方」のあとすぐに「高田馬場まで」と入力。

このアシスタントbotは、アプリを移動せずに様々な情報を一気に調べられるのが一番のメリットと考えている。
例えば、Googleカレンダーに登録しているスケジュールを確認し、目的地の天気を確認し、周辺のグルメ情報を調べた後に道順を調べる、など、一連の流れに対応してくれるのは非常に便利。
ただ、残念ながらECにはまだ活用されていない。

チャットボット、その活用方法は

これまで見てきたとおり、チャットボットは問いかけの内容にちゃんと答えてくれるものと、問いかけの内容は考慮せずにランダムに画像や回答などを返してくるものが存在している。

前者のチャットボットは人とのコミュニケーションとWebでいつでもどこでも利用できるという手軽さの二軸で今後のさらなる普及が考えられる。今後は、やりとりがさらに自然になったり、ユーザーの情報を与えたりすることで、回答の質も上がることが考えられる。ECでもコミュニケーションの一部として利用されるのが当たり前、という未来もあるだろう。

今回は世界で利用されているメッセンジャーアプリと、その上で提供されているチャットボットの紹介を行った。次回はECで利用されているチャットボットの事例から、今後どのように活用されるかを考えていきたい。